新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策に関する緊急要望を政府に提出(日商)

2020年4月2日 木曜日

日本商工会議所は、3月6日に発出した緊急提言に続き、政府の追加経済対策に関して、要望書「新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策に関する緊急要望~感染拡大防止の徹底と地域経済社会への影響の最小化に向けて~」を取りまとめ、3月30日に政府に提出いたしました。今後、関係閣僚・国会議員・政府関係者等にも働きかけてまいります。
国内の感染拡大防止に向けた政府の自粛要請を機に、地域の経済社会活動は一段と制約され、幅広い業種の中小・小規模事業者の経営が危機的状況に陥っており、特に、観光関連産業などの需要が一瞬で消滅したことにより、地域経済への影響は時間の経過とともに深刻さを増しています。
倒産や廃業を防止するため、さらなる支援体制の強化と施策の拡充とともに国民や事業者の不安払拭を図る必要があり、官民一体の取り組みの徹底が不可欠であることや、過度に活動が委縮することがないよう、地域の実情に応じた具体的な自粛基準などの早期提示が必要であること、一定の収束が見通せた段階においては、経済のV字回復に向けた国民や事業者の景気浮揚への期待を喚起する大規模な政策を大胆に実施すべきであるとし、以下の3つの柱に基づいて、要望しております。
Ⅰ.「倒産・廃業防止のための前例にとらわれない緊急対策」
Ⅱ.「徹底した感染拡大防止の下、地域経済社会への影響を最小限に留める対策」
Ⅲ.「経済のV字回復に向けた大胆な経済対策」

以下、要望書の内容です。 https://www.jcci.or.jp/recommend/2020/0330140000.html

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済対策に関する緊急要望
~感染拡大防止の徹底と地域経済社会への影響の最小化に向けて~
2020 年3月 30 日 日本商工会議所 東京商工会議所

日本商工会議所の3月の早期景気観測調査(調査期間:3月 13 日〜19 日)では、9割超の 事業者において、「製品・サービスの受注・売上減少、客数減少」など、新型コロナウイルスの 感染拡大に伴う経営への影響(懸念を含む)が生じている。企業の業況感を示す全産業合計の 業況DIは▲49.0 と、東日本大震災発生後の 2011 年6月以来の水準に落ち込み、2月からの 悪化幅▲16.4 ポイントは、過去最大を記録した。 国内の感染拡大防止に向けた政府の自粛要請を機に、地域の経済社会活動は一段と制約され、 自粛の連鎖により、幅広い業種の中小・小規模事業者の経営が危機的状況に陥っている。特に、 観光関連産業などの需要が一瞬で消滅したことにより、地域経済への影響は時間の経過ととも に深刻さを増している。すでに新型コロナウイルス感染症の影響による倒産件数は 19 件(3月 30 日現在、帝国データバンク公表)発生している。収束まで長引けば、その営業損失は計り知 れず、今後さらなる倒産・廃業の急増が懸念される。 現在、資金供給や雇用維持を中心とした2度にわたる政府の緊急対策が実行されているが、 刻一刻と経営が悪化する事業者からの相談は急増しており、倒産や廃業を防止するため、さら なる支援体制の強化と施策の拡充が不可欠である。また、収束への出口が見えないことが国民 や事業者の不安に拍車をかけており、政府においては、予断を許さない状況の中、改めて感染 拡大予防を徹底するとともに、科学的根拠に基づく適切かつわかりやすい情報提供を通じ、国 民や事業者の不安払拭を図る必要がある。爆発的な感染拡大を生じさせないためには、国民、 事業者も緊張感を持って、感染拡大防止に向けた行動変容の必要性を認識した、官民一体の取 り組みの徹底が不可欠である。 同時に、地域において感染拡大リスクが異なることを踏まえ、過度に活動が委縮することが ないよう、地域の実情に応じた具体的な自粛基準などの早期提示が必要である。そのうえで、 一定の収束が見通せた段階においては、経済のV字回復に向けた、国民や事業者の景気浮揚へ の期待を喚起する大規模な政策を大胆に実施すべきである。 この未曾有の困難に直面し、地域総合経済団体である商工会議所は、政府や地方自治体との 連携をより緊密化させ、全国 515 商工会議所および 124 万会員等のネットワークを最大限活用 し、地域における事業や雇用を守り、経済社会の底割れを防ぐため、引き続き強力に活動を展 開してまいる所存である。3月6日に発出した緊急提言に続き、日本商工会議所・東京商工会 議所では、政府の追加経済対策に関し、以下のとおり収束への時間軸に即した要望をとりまと めたので、政府におかれては、現場の中小・小規模事業者の実態や地域経済の窮状をご賢察い ただき、下記事項を何卒実現されたい。

「Ⅰ.倒産・廃業防止のための前例にとらわれない緊急対策」 「Ⅱ.徹底した感染拡大防止の下、地域経済社会への影響を最小限に留める対策」 「Ⅲ.経済のV字回復に向けた大胆な経済対策」

2

Ⅰ.倒産・廃業防止のための前例にとらわれない緊急対策
各地域では、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた自粛の連鎖が発生し、相次ぐ予約・ 受注キャンセルに伴う急激な売上減少に直面している中小・小規模事業者は、事業存続の危機 に瀕している。資金繰り支援、雇用調整助成金の拡充、休業補償などの2度にわたる政府の緊 急対策が実行されているが、刻一刻と事態が深刻化する中、相談窓口への申込みが急増し、融 資や雇用調整助成金の申請と実行に時間がかかるなどの問題が生じている。経営者の高齢化、 後継者不在、二重債務などを理由に事業継続を諦めてしまう者が出てくることも想定される中、 急増が懸念されるコロナ倒産や廃業を防止するためにも、政府支援策が遅滞なく広く行き渡る 一層の体制整備とともに、以下のとおり支援のさらなる拡充を講じる必要がある。 また、新型コロナウイルス感染拡大は、サプライチェーンを毀損し、生産活動の停滞や部品 の輸入遅延などの影響が深刻化している。こうした中で、経営基盤の弱い下請企業への親事業 者からの一方的な取引停止やコストのしわ寄せなど不当な取り引きが行われないよう、適正な 取引環境の監督・整備には万全を期すべきである。 さらに、入手困難なマスクや消毒薬などは、国民の健康を守る医療従事者等に行き渡るべき ものであるが、飲食・サービス業など、マスクなしでは営業が困難な事業者も多数存在し、マ スクや消毒薬などの衛生用品の不足が事業継続の足枷となっている。マスクなどの取り扱い店 などからは、一部の者による買い占めや販売に伴うトラブルが報告されていることから、大幅 な生産体制の拡充支援とともに、必要な者に適切にマスクなどが行き渡るような管理体制を強 化されたい。

1.資金繰り関連
(1)中小・小規模事業者の事業継続に資する大胆な給付金制度の創設 政府・地方自治体等によるイベント等開催自粛要請や外出自粛要請、学校休業等、今回 の新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた中小・小規模事業者に対し、事業や店 舗等の継続に向け、大胆な給付金制度を創設されたい。

(2)迅速な無利子・無担保融資の実行に向けた金融機関の機能強化 緊急貸付等の利用を希望する中小・小規模事業者は、相談予約が取れず、申し込みまで に時間がかかるなど、融資実行までの資金繰りに大きな不安を抱えている。すでに相談の 現場では相当な努力が払われていると理解しているが、相談機能を強化するとともに、融 資手続きの簡素化および融資実行の迅速化を図られたい。あわせて、民間金融機関の積極 活用への後押しを強化されたい。

(3)民間金融機関融資の実質無利子化・無保証料化等の推進 ①第2弾の緊急対応策で措置された「特別利子補給制度」に倣い、新型コロナウイルス感 染症の影響を特に受けている中小・小規模事業者の資金繰りを支援するため、民間金融 機関の融資に係る当初3年間の利子および保証料を補填する制度を創設し、実質無利子 化・無保証料化を実現されたい。 ②新型コロナウイルス感染症の影響を受けている創業3カ月未満の創業者を支援するため、 セーフティネット保証制度の対象を拡大されたい。

3
(4)新型コロナウイルス対策マル経融資の全額利子補給制度等の推進 ①新型コロナウイルス対策マル経融資への全額利子補給制度の創設 マル経融資は商工会議所等の経営指導員の経営指導を受けていることが条件であり、 新型コロナウイルスの影響を受けた小規模事業者の持続的な経営や、収束後の経営改善 に資することが大いに期待できる。小規模事業者の利用促進のためにも、第2弾の緊急 対応策で措置された「特別利子補給制度」に倣い、全額利子補給制度を創設されたい。 ②創業者(創業後1年未満の者を含む)に対するマル経融資への適用拡大 感染拡大防止に伴う外出自粛や企業の活動自粛等により、創業予定者が創業を断念す るケースや創業間もない者が事業の見通しがつかなくなるなど、創業者に大きな影響が 出ている。商工会議所等の経営指導員による伴走型の経営指導を受けながら資金調達を 行い、早期に事業を軌道に乗せることができるよう、創業後1年未満の者を含む創業者 に対してもマル経融資を適用されたい。

(5)既往債務の条件変更や返済猶予等の柔軟な対応 ①政府系金融機関および民間金融機関、信用保証協会等に対し、積極的な新規融資や返済 猶予等の既往債務の条件変更、条件変更先への継続した資金繰り支援など、資金繰りの 円滑化に向け柔軟かつ早期に対応されるよう要請されている中、同要請の対応状況をモ ニタリングするなど、その実効性を確保されたい。 ②資金繰りに影響が出ている中小・小規模事業者が、金融機関から信用保証協会の保証付 の既往債務の条件変更を受ける際、最終期限の延長部分の保証料負担により資金繰りに さらに悪影響が出ることが危惧される。そのため、既往債務の条件変更について、信用 保証協会の保証料を免除、もしくは利子補給等を行うことで、資金繰りへの配慮をお願 いしたい。 ③既往債務の返済猶予等の条件変更を行った場合、将来的に新規借り入れ等に影響が及ば ないよう、特段の配慮をお願いしたい。 ④信用保証協会に対し、信用保証協会が求償権を有している中小・小規模事業者への資金 繰り支援において、一律に拒絶するのではなく、可能な限り積極的に保証を検討・実行 するように、再度周知徹底されたい。

(6)二重債務の負担軽減 東日本大震災や熊本地震など、大規模自然災害等で被災した中小・小規模事業者が新型 コロナウイルス感染症の影響を受け、二重債務となる場合の負担軽減措置を講じられたい。

(7)国税・地方税の納税猶予、固定資産税の減免等 ①売上の急減などにより、納税猶予措置の適用を希望する企業に対して、適用要件や申請 手続きの緩和を図るとともに、延滞税等が課せられないよう配慮されたい。 ②従業員の罹患などにより、国税・地方税に係る申告・納付等の期限の延長を希望する企 業に対して、手続きの遅れなどにより、利子税等が課されないよう配慮されたい。 ③売上が激減した中小・小規模事業者の資金繰りを支援するため、土地・建物等に係る固 定資産税の軽減措置を講じられたい。 ④急激な売上減少などで欠損金が生じる中小・小規模事業者の資金繰りを支援するため、 仮決算の中間申告による還付請求や、還付対象となる事業年度を前々期まで遡及できる 措置などを講じられたい。 ⑤店舗などを賃借している事業者においては、売上が急減する中、固定的に支払いが発生 する賃料が負担となっている。物件オーナーが賃料の減免などの要求に応じた場合に、 寄付金扱いしない、もしくは受贈益扱いしないことを明確化されたい。

4
(8)社会保険料等の減免 社会保険料等(労働保険料や子ども手当の事業主拠出金等を含む)の納付が困難な中小・ 小規模事業者に対して、社会保険料等の減免、賃金減額に伴う標準報酬月額の即時改定、 社会保険料率の一時的な引き下げ等による保険料負担の軽減措置を講じられたい。また、 納付猶予時にかかる延滞金については全額免除とされたい。

(9)小規模企業共済や経営セーフティ共済における特段の配慮 ①小規模企業共済について、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた共済契約者に対し、 共済契約者貸付の条件緩和(貸付利率の無利子化、据置期間の設定、償還期間の延長等)、 掛金の納付期限の延長、延滞利子の免除等の特段の配慮されたい。 ②経営セーフティ共済について、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた共済契約者に 対し、一時貸付金の金利低減、掛金の納付期限の延長、一時貸付金の返済猶予等の特段 の配慮されたい。

(10)新しい挑戦へと向かうための事業再生やソフトランディングに向けた支援 新型コロナウイルス感染症の影響でやむを得ず自社の事業継続を断念し、事業再生や廃 業を選択する中小・小規模事業者の増加が想定される。事業再生や円滑な廃業のためには、 金融機関との調整をはじめ、取引先との関係整理や事業譲渡の検討など、専門的な支援が 必要となる。事業継続断念後に中小・小規模事業者等の経営者が再チャレンジを果たし、 次なる挑戦へ向かえるよう、中小企業再生支援協議会の機能強化を含め、事業再生やソフ トランディングに向けた支援を強化されたい。

2.雇用維持関連
(1)雇用調整助成金の支給要件緩和、助成率の引き上げ、支給の迅速化等 ①雇用調整助成金については、支給要件の緩和(生産指標要件を満たすものとして取り扱 う)を全国的に適用されたい。また、助成率については、さらなる引き上げ(全額給付) が必要である。さらに利用を促すために、手続きなどに不慣れな中小・小規模事業者に 対する社会保険労務士等の専門家派遣による助成金申請支援を措置されたい。 ②雇用調整助成金について、申請の増加により、支給までに通常時より時間がかかること が想定される。都道府県労働局やハローワーク等の相談窓口では相当な努力が払われて いるが、窓口機能のさらなる強化を図られたい。また、支給までのつなぎ資金を即日で 融資できる公的支援制度を創設されたい。

(2)オンライン就職相談・面談等、採用活動への支援 合同会社説明会が中止になっている状況に鑑み、都道府県労働局が中小・小規模事業者 を対象にウェブ上で合同会社説明会を実施することや、中小・小規模事業者が独自にウェ ブ上で新たに採用活動に取り組む際の費用等に対する助成策を講じられたい。

(3)時間外労働等改善助成金の拡充 時間外労働等改善助成金(テレワークの特例コース)について、パソコン、タブレット 等導入費の支給対象化や、全額給付も含めた助成率のさらなる引き上げなどを図られたい。 また、中小・小規模事業者がその導入メリットを体験できるよう、テレワーク用端末・ツ ールの無償貸与制度を創設されたい。
5
(4)教育訓練給付金の要件緩和 売上の大幅な減少で休業を余儀なくされている事業者が、新型コロナウイルス感染症の 収束後を見据えて、従業員の人材育成に取り組む場合、eラーニングやオンライン講座を 迅速かつ機動的に活用できるよう、教育訓練給付金の支給要件期間を撤廃する等の要件緩 和を検討されたい。

(5)中小・小規模事業者の経営実態を踏まえた最低賃金の適正な水準の決定 「経済財政運営と改革の基本方針」で示される最低賃金に関する政府方針について、政 府は新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大による現下の危機的経済情勢を反映し た新たな 2020 年度の方針を設定されたい。また、最低賃金の水準について、2020 年度は 例年以上に足元の景況感や経済情勢を十分に反映した慎重な審議が求められる。リーマン・ ショック時の2009 年度の引き上げ率(1.42%)や東日本大震災時の2011 年度の引き上げ 率(0.96%)を踏まえ、2020 年度は、引き上げの凍結も視野に入れたうえで、中小・小規 模事業者の経営実態を踏まえた適正な水準を決定されたい。

(6)雇用保険特別会計や事業主拠出金の積立金残高に応じた国庫負担による補填 累次の緊急対策により、雇用保険特別会計や中小・小規模事業者が6割弱負担している 事業主拠出金の積立金残高が大幅に目減りする場合には、料率引き上げではなく国庫負担 により補填されたい。

(7)現下の状況に配慮した働き方改革関連法の中小・小規模事業者への運用 本年4月から中小・小規模事業者への施行が予定されている「時間外労働時間の上限規 制」をはじめ働き方改革関連法について、新型コロナウイルス対応により繁忙な中小・小 規模事業者に対し、労働基準監督署の助言・指導にあたっては、配慮規定に則り、丁寧な 指導を実施するよう周知されたい。 また、同じく4月より施行される「同一労働・同一賃金」の制度について(中小・小規 模事業者は 2021 年4月より)、新型コロナウイルス感染症による先行き不安が広がり、未 だ対応の目途が十分についていない事業者が多いことを踏まえ、「働き方改革支援センター」 等による丁寧かつきめ細かい相談支援、キャリアアップ助成金など支援策のさらなる強化・ 拡充を図るとともに、周知徹底をお願いしたい。

3.取引環境の適正化
(1)混乱に乗じた、中小・小規模事業者への取引上のしわ寄せ防止 新型コロナウイルス感染拡大による混乱に乗じて、下請けの中小・小規模事業者が親事 業者から不当な契約の打ち切りや適正なコスト負担を伴わない通常より低い価格での受注 を迫られるなどの事態が生じることが懸念される。 経済産業省は、2月 14 日および3月 10 日、親事業者に対し、下請等中小企業に不当な 取引条件の押しつけを行わないなどの配慮をするよう要請した。また、3月 10 日には、個 人事業主・フリーランスと取引を行う発注事業者に対し、取引上の適切な配慮を行うよう 要請した。下請Gメン等による実態監視の徹底とともに、適正なコスト負担、取引価格に 対する徹底した指導、下請取引の条件改善など適正な取引環境を整備し、下請等中小企業 や個人事業主・フリーランスへの取引上のしわ寄せが及ばないよう、同要請の実効性を確 保されたい。

6
また、経済産業省と和歌山県で締結された「下請等中小企業の取引条件改善に向けた国 と地方自治体との連携協定」は高い実効性が期待されるスキームであり、全国展開すべき である。

(2)大企業と中小企業の共存共栄に向けた取引価格など取引環境の適正化への取組みの加速 中小企業庁「価値創造企業に関する賢人会議」の中間報告(2月 28 日)において、経済 全体のパイの拡大に向け、大企業と中小企業が規模や系列、地域を超えた連携を促進し、 互いに稼げる「共存共栄」関係の再構築の重要性が打ち出された。同中間報告では、大企 業と中小企業間における取引価格の適正化や、知財やノウハウの不当な吸い上げなどを排 除するため、取引環境の適正化に取り組む方針が示された。また、今後、「未来を拓くパー トナーシップ構築推進会議」で検討が進められることとなった。 ついては、今回の非常事態から脱却し再起を図る過程において、大企業と中小企業が共 存共栄関係を再構築し、この取り組み方針に沿って取引環境の適正化を図るよう指導され たい。

7
Ⅱ.徹底した感染拡大防止の下、地域経済社会への影響を最小限に留める対策
政府の感染防止策により国内の感染状況は持ちこたえているが、海外では爆発的な感染拡大 が発生しており、予断の許さない状況が暫くの間継続することが想定される。政府においては、 大都市などで爆発的な感染拡大が生じないよう、治療薬の開発や検査体制の拡充、水際対策の 強化とともに、気を緩めずに徹底した感染拡大防止策を講じていくことが必要である。国民、 事業者も緊張感を持って、感染拡大防止に向けた行動変容の必要性を認識した、官民一体の取 り組みの徹底が不可欠である。 一方、収束への出口が見えないことが国民や事業者の不安に拍車をかけている。政府には、 回復者を除いた現在の罹患者数を含め、科学的根拠に基づく適切かつわかりやすい情報提供を 通じ、国民や事業者の不安払拭を図り、過度に活動が萎縮しないようにしていくことにも留意 が必要である。特に、全国一律の自粛の継続が地域の中小・小規模事業者に与える影響は甚大 であり、自粛に伴うコロナ倒産が飛躍的に増加する可能性が高い。3月 19 日に公表された政府 の専門家会議の提言では、地域によって感染拡大状況やリスクに差があり、感染拡大の推移を 踏まえて、各地域でイベントなどの開催判断が可能との方向性が示されているが、地域が判断 しやすい具体的なきめ細かい自粛のガイドラインなどの早期提示が必要である。感染拡大防止 を徹底する一方で、刻一刻と深刻化する地域経済社会への影響を最小限に留める対策を中期的 な視点で進めていくことが重要である。 感染拡大防止のためにヒトやモノの移動が抑制されている中、地域経済活動を落とさないた めの大きな鍵は「デジタル技術の活用」である。中小・小規模事業者等に対し、現状克服に即 効性の高いデジタル技術の活用を加速化させる強力な支援を至急講じられたい。

(1)イベント自粛の是非や実施方法に関するきめ細かい明確なガイドラインの早期作成 政府から、クラスター発生を防ぐため、①換気が悪い密閉空間、②人が密集している、 ③近距離での会話や発声という3条件が同時に重なる場所や場面を避けることが必要と の基準が示されている。また、 「地域ごとの対応に関する基本的な考え方」として、社会・ 経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止とクラスター連鎖防止の効果を最大 限にしていく観点から、地域の感染状況別にバランスをとりながら対策を行っていくこと が必要であり、①感染状況が拡大傾向にある地域、②感染状況が収束に向かいはじめてい る地域ならびに一定程度収まってきている地域、③感染状況が確認されていない地域、の 3分類が提示されている。これらを基に、イベントなどの開催可否は地域ごとに主催者の 判断に委ねられている。 都市部では、経路不明の感染者が急増するなど予断を許さない状況にあり、爆発的な感 染拡大防止への十分な対応を取る必要がある。一方、感染状況が一定程度収まってきてい る地域、または、感染状況が確認されていない地域においては、万全の感染拡大防止策を 前提に、感染リスクの低い活動から徐々に解除し、地域の経済社会活動の正常化を目指し ていくことが重要である。現在、示されている判断基準は上記2つであり、必ずしも地域 や主催者に理解しやすいものではない。今後、春から夏にかけて全国各地で様々なイベン トが予定されているが、政府においては、各地域のイベントなどについて、自粛・中止す べきものかを地域や主催者が判断できるような、自粛の是非や実施方法に関する数字等も 盛り込んだきめ細かい明確なガイドラインを早急に作成し、公表されたい。

8
(2)需要が激減している地域の特産品店や飲食店などの販売促進に資するEコマース、各種 イベントのライブ配信などを活用した需要回復支援 ①ECサイトの構築・活用による地域の特産品などの販売支援 地域では、観光客など人の移動が激減し、観光業や小売業において、特産品の売上減、 生鮮食品の在庫拡大など大きな影響が生じている。こうした中、観光地などでは、EC サイトに出店し、来訪できない顧客に特産品を販売する動きが出てきている。しかし、 地域の特産品などを取り扱う中小・小規模事業者がECサイトを利用するには費用負担 が大きいことから、出店に必要な費用を助成されたい。また、販売支援サイトの出店料 を抑制する観点から、ECサイトの構築や運用に係る費用の軽減も措置されたい。 ②クラウドファンディングを活用した資金調達支援 来店客が激減している地域の飲食店が、インターネットを通じたチケット販売などに より、営業に必要な資金を調達する動き(クラウドファンディング)が出てきている。 しかし、深刻な影響を受けている中小・小規模事業者は、活用ノウハウが乏しいため、 クラウドファンディングの活用に必要な費用の助成などを措置されたい。 ③コンサートや演劇などイベントのライブ配信支援 感染拡大防止のための自粛により、コンサート、演劇などのイベントの開催が困難と なり、関連する事業者の売上や出演者の収入に大きな影響が出ている。イベントなどを ライブ配信とし、視聴する権利をチケット化し、国内外の希望者に販売することにより、 チケット枚数の上限を設ける必要がなくなり、売上の一部補填に有効である。中小・小 規模事業者などがオンラインでイベントを開催する際に必要なシステム利用や撮影機材 などにかかる費用や、こうした取組みをPRするキャンペーン費用の助成などを措置さ れたい。

(3)テレワークやオンライン会議など、働き方改革を見据えたデジタル技術の活用促進 ①感染症予防のほか、多様で柔軟な働き方にも資するテレワークやオンライン会議などの 推進に向けて、中小・小規模事業者目線のIT専門家による支援体制の構築とともに、 テレワーク等に必要なシステムや機材等の導入に係る予算・税制措置(IT導入補助金 の自己負担ゼロ化、少額減価償却資産特例の拡充など)を講じられたい。 ②モバイルを活用した働き方を後押しするため、タブレット機器のレンタルやモバイルア プリ等をIT導入補助金の対象とするとともに、クラウド型サービスの初期費用や月額 使用料等のランニングコストを助成されたい。また、テレワークや業務のIT化に伴う サイバーセキュリティリスクの増加に対応するため、サイバーセキュリティに関する民 間保険など民間サービスの活用を促進されたい。

9
Ⅲ.経済のV字回復に向けた大胆な経済対策
感染拡大に一定の収束が見通せた段階において、急激に落ち込んだ需要を回復させるため、 消費喚起を図るとともに、サプライチェーンの再構築など供給力を強化し、経済のV字回復を 実現するために、大胆な規模の経済対策を打ち出す必要がある。あわせて、少子化対策や生産 性向上、新たな付加価値創出への企業の挑戦支援、社会のデジタルシフトによる国民生活の向 上など、わが国の構造的な社会課題を克服し、中長期の成長につながる目的をもった対策も講 じることが極めて重要である。 なお、消費税は、少子化対策も含め、将来の安心のための社会保障制度の財源であり、中長 期の成長戦略との整合性から、今回の経済対策の対象とするか慎重に検討すべきである。また、 仮に消費税率を引き下げるとなれば、税率引き下げまでの間に買い控えが発生する可能性があ ること、事業者においてシステムや値札の再変更等に係る負担が生じること等が懸念される。

1.急激に落ち込んだ需要をV字回復させるための大胆な措置
<1>大胆な個人消費の喚起策 (1)消費の早期回復を加速させる大胆な家計支援の実行 個人消費の早期回復を加速させるため、一律の対応ではなく、子育て世帯などを対象 とした給付金など、大胆な家計支援を講じられたい。

(2)旅行や飲食、イベント等の需要を喚起し、国内の人の動きを活発化させるための方策 ①広く旅行や宿泊、飲食、イベント、レジャー等で活用可能なクーポン券の発行など、 国民の幅広い消費意欲を喚起する大胆な支援策を講じられたい。これらの直接的な消 費喚起策とあわせて、商店街などが地域の賑わい創出のために実施するキャンペーン などに係る地域商品券の発行等の費用を補助されたい。また、国や地方自治体が所有 し、運営する観光施設の入場・利用料金の無料化、および地方自治体が無料化措置を 行う場合については、国による補填を行われたい。 ②観光地での消費を喚起させるなど、国内観光を活発化させるため、交通費の負担を軽 減して人々の移動を促進すべく、高速道路料金の無料化など軽減措置や、鉄道・バス・ 内航フェリーなど公共交通機関利用料金に関する割引措置を講じられたい。あわせて、 空港利用料、航空燃油税、貸切バスの軽油引取税の減免等により、関係運送事業者の コスト軽減と利用料金引き下げを図られたい。

(3)個人版ふるさと納税の拡充による地域事業者の活用促進 個人版ふるさと納税の返礼品・サービスは地域PRとともに、地域の事業者の収益向 上にも資することから、地場産品・サービスに限定することを徹底したうえで、返礼率 引き上げや限度額引き上げなどの制度拡充を行われたい。

(4)地方空港における利用客のチェック体制強化 日本国内の旅行の安全・安心を確保するため、地方空港等におけるサーモグラフィ(体 温検知機器)設備およびチェック体制の充実・強化を図られたい。

(5)内需拡大に資する住宅取得の促進 消費税率引き上げに伴う需要喚起策として措置された住宅ローン減税の特例や住宅資 金贈与特例等について、延長されたい。

10
<2>企業の活力を取り戻す方策 (1)売上向上等に取り組む中小・小規模事業者への支援拡充 新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも、売上向上や経営安定化等に取り組 む中小・小規模事業者の設備投資、販路開拓、商品・サービス開発、IT活用、越境E C、海外展開等について強力に支援されたい。

(2)イベント・展示会・商談会等の開催による販路拡大への支援 売上減少に苦慮する中小・小規模事業者のビジネスチャンス拡大のため、イベントや 展示会・商談会等の開催による販路拡大に資する支援策を講じられたい。また、オンラ イン商談会等を推進されたい。

(3)魅力ある製品・サービスの創出に資する支援 消費者のニーズに合った魅力ある製品・サービスを創出するため、専門家によるハン ズオン支援や補助金、クラウドファンディング、産学連携等により、中小・小規模事業 者の挑戦を後押しされたい。

(4)企業消費を促す交際費課税の緩和 企業の飲食費支出を増加させることで、地域の賑わいを創出するため、税務上の交際 費から除かれる飲食費(1人あたり5千円以下)について、上限を1万円程度まで引き 上げる等、交際費課税を緩和されたい。

(5)官公需の前倒し発注 年度当初の行政需要を喚起するため、官公需の前倒し発注を行われたい。

2.中長期的な成長基盤の強化
<1>デジタル化による生産性向上・社会構造の変革 (1)デジタル化の加速、省人化・効率化に資する設備投資の促進 ①省人化・効率化に資するデジタル実装の環境を整備する観点から、中小・小規模事業 者が顧客管理や受発注管理、売上・会計、決済等、企業間取引を一気通貫で管理でき る共通基盤(中小企業共通EDI、金融EDI、電子記録債権など)の導入支援を図 られたい。また、既存のEDIに多く使われているISDN回線が 2024 年に終了する こともあり、光回線やローカル5G等への移行支援を講じられたい。 ②中小・小規模事業者が、ネットを通じて業務のアウトソーシングを可能とする「クラ ウドソーシング」の活用促進や、使いやすいクラウドサービスを探すことができる支 援の充実を図られたい。 ③IT・IoT、ロボット導入等のデジタル実装を実現するためには、「スマートものづ くり応援隊」事業で見られるとおり、支援機関および専門家が新たにチームを組み、 面的な支援を展開する相談体制の拡充が必要であり、ものづくり補助金「ビジネスモ デル構築型」(補助率 10/10、定額補助)と同等の支援の拡充を図られたい。 ④対面販売時の時間短縮に向けて、モバイルオーダー(スマートフォンでの商品選定・ 注文・決済等)とキャッシュレス決済を推進されたい。そのため、手数料の低減や初 期投資の低減、入金までのタイムラグの短縮化等の支援とともに、地域での消費喚起 の基盤構築のため、地域で一体的に行うキャッシュレス決済の導入を支援されたい。 加えて、災害時でもキャッシュレス決済が利用可能な環境を整備されたい。

11
(2)マイナポイントの活用による消費活性化とマイナンバーカードの普及促進 マイナポイント上限額の引き上げによる消費の活性化に加え、マイナンバーカードと 個人の投薬情報や受診情報との紐づけ、運転免許証等公的身分証との統合、災害時等を 想定したIDカードとしての機能拡充等により、マイナンバーカードの普及促進を図ら れたい。

(3)一定程度、規制緩和が進んでいるオンライン診療・服薬指導の活用の加速 新型コロナウイルスをはじめとする感染症に感染しているかどうかの診断を遠隔で 数多く行うことや、別の軽度な病気の患者が病院内や薬局内で感染することを防止する ためにも、オンライン診療・服薬指導を進めていくことは重要である。 また、医師不足地域でも一定水準の医療サービスを受けられる環境整備の観点からも、 オンライン診療・服薬指導を進めることは有効である。 このため、既に一定程度進んでいる規制緩和をさらに進めることなどにより、オンラ イン診療・服薬指導の活用を加速されたい。

(4)教育のICT化の取り組みの加速 ICT・データ活用能力の向上に向けた生徒、学生の育成、学校休校時の対応強化、 スマート教育の推進に向け、遠隔授業やデジタル教科書の普及、学習履歴の活用等に必 要な教育現場のICT環境の整備を加速されたい。

(5)ウイルス等感染症対策に資する技術開発の加速化 感染症の診断、感染拡大の防止や早期対応、感染症の重症患者等に対する治療などに 資する技術開発や実証を加速するため、これらの取り組みに対する支援を講じられたい。

(6)健康・医療産業の成長力強化 健康・医療分野におけるセンサーやロボット、ウェアラブル機器など次世代技術を活 用した実証実験に対する支援、高度な技術を有するモノづくり分野の中堅・中小・小規 模事業者の健康・医療分野への参入支援など、健康・医療産業の成長力強化を加速され たい。また、適度な運動は、免疫力強化につながることから、健康経営を一層普及推進 すべきである。

<2>企業の成長を促す基盤整備 (1)毀損したサプライチェーンの国内回帰による再構築支援 新型コロナウイルスの感染拡大による、海外生産拠点の撤退・縮小などサプライチェ ーンの毀損に対応し、国内への設備投資や販路開拓等に取り組む事業者に対する支援の 拡充を図られたい。

(2)価値ある事業の次代への承継に向けた事業引継ぎ・創業支援の推進 価値ある事業を途絶えさせずに着実に次代へ承継するため、事業承継、事業統合・再 編、経営資源や後継者人材のマッチング、創業・第二創業等を力強く支援されたい。

(3)感染症対策を含むBCP(事業継続計画)策定の推進 新型コロナウイルスをはじめとした感染症対策を含むBCP(事業継続計画)策定の 推進に向け、ガイドラインの作成・公表やセミナー相談会の開催、専門家派遣、優良事 例の作成・公表等を行われたい。

12
(4)事業構造改革に取り組む中小・小規模事業者の事業再編・統合を後押しする税制措置 の創設 新事業展開や既存事業の再編等、自社の事業構造改革に取り組む中小・小規模事業者 を後押しするため、事業の譲受等に係る特別控除措置の創設等、大胆なインセンティブ 措置を講じられたい。

(5)研究開発税制の控除上限の引き上げ、繰越控除措置の復活 急激な経営悪化により、企業の研究開発が縮減・途絶することのないよう、研究開発 費の控除上限の引き上げや、繰越控除措置を復活されたい。

(6)固定資産税の減免措置の拡充 業況悪化により設備投資が滞ることのないよう、固定資産税の減免措置の拡充を図ら れたい。 (7)風評被害への対策 新型コロナウイルスの感染者が発生した地域では、風評被害による影響が長期にわた ることが懸念される。風評被害を払拭するためにも、科学的根拠に基づいた正確な情報 を継続的に発信、徹底した説明を行うことに努められたい。

以 上